作品の裏側

「少年時代」をフリモメンとピアノで。懐かしい夏を、穏やかに振り返る一幕

KOSHIKA

夏が過ぎていく頃、ふと昔の景色を思い出すことがあります。

井上陽水さんの「少年時代」を、フリモメンの歌声とピアノでカバーしました。

今回描きたかったのは、過ぎた夏を重たく振り返るというよりも、楽しかった頃の景色や時間が、ふと記憶の中によみがえるような感覚です。

そのためフリモメンの歌声も、低く太い男性声を前面に出すのではなく、落ち着いた音域の中に柔らかさと、すっきりとした響きを残す方向へ。

ピアノとともに、昔の夏を少し振り返るような一幕を目指しました。


フリモメンは、柔らかくすっきりとした男性声に

今回のVocal Styleは、次のように設定しています。

Vocal Style設定値
Gentlemen30%
Softmen60%
Clearmen15%
Silkymen30%
Breath+0.35

中心にしたのは、Softmenの60%です。

「少年時代」は昔を振り返るような曲ですが、歌声まで重たくするのではなく、懐かしい景色を穏やかに思い出すような歌唱にしたいと考えました。

そこで、低く太い男性声を強く押し出すのではなく、Softmenを中心にGentlemenやSilkymenを組み合わせ、Clearmenも15%加えています。

目指したのは、男性らしい落ち着きを持ちながらも、重くなりすぎない歌声。

柔らかく、すっきりと聴けるフリモメンに整えました。


Key Shift -12 smtで、歌声を1オクターブ下へ

楽譜通りに入力した状態での歌唱範囲は、E4〜F5です。

今回はSynthesizer V Studio 2 ProのKey Shiftを-12 smtに設定し、歌声を1オクターブ下へ移動しています。

そのため、実際の歌声はE3〜F4相当の音域になります。

Key Shiftを変更せずに歌わせると、今回のフリモメンには声がかなり高く、イメージしていた落ち着いた男性の歌声とは少し違って聴こえました。

そこで音符そのものを変更するのではなく、Key Shiftによって歌声の位置を下げています。

ただし、低くしたからといって、声まで重厚にすることが今回の目的ではありません。

低い位置で自然に歌いながら、柔らかさや軽やかさを残す。

先ほどのVocal Styleも含めて、そのバランスを探していきました。


音素調整は、わずか3か所

今回、個別に音素を調整したのは3か所だけです。

しかも、すべてこれまでの制作でも何度か調整してきた「おう」に関係する発音でした。

それ以外は、基本的に入力した状態のままです。

細かな音素調整をほとんど必要としなくても、かなり自然に歌ってくれたところは、Synthesizer V Studio 2 Proの歌唱生成の良さを改めて感じた部分でした。

調声では、必ず何かを変更しなければならないわけではありません。

実際に聴いてみて自然に歌えているのであれば、そのまま残す。

今回はまさに、そんな箇所の多い歌唱になりました。


ピアノは86 BPM、Key Aで制作

ピアノは次の条件で制作しています。

項目設定
KeyA
Tempo86 BPM
最低音A0
mpVelocity 72
mfVelocity 80

今回も、楽譜に記されたmpやmfなどの強弱をMIDI上で表現するため、それぞれに普段使用しているVelocityの基準値を設けています。

「少年時代」ではfの基準を使用する場面はなく、mpとmfを中心に演奏を組み立てました。

大きく強弱を付けてドラマチックに動かすというよりも、歌声とともに穏やかに流れていくピアノです。

ピアノの最低音はA0。

非常に低い音域まで使用するため、EQでは不要な低域を整理しながら、ピアノそのものの響きを残していきました。


ピアノEQ――低域を整理しながら、輪郭を残す

ピアノのEQは次の設定です。

BandFreqGainQ / Slope
LC30 Hz―12 dB/Oct
LF Shelf100 Hz-1.75 dB6 dB
LMF325 Hz-2.5 dBQ 1.2
MF1.35 kHz-1.5 dBQ 1.0
HMF3.5 kHz+1.5 dBQ 0.9
HF Shelf8 kHz+1.25 dB6 dB
HC18 kHz―12 dB/Oct

最低音がA0まであるため、Low Cutは30 Hzに設定しています。

さらに100 Hzを-1.75 dB、325 Hzを-2.5 dBとして低域から中低域を少し整理。

一方で3.5 kHzを+1.5 dB、8 kHzを+1.25 dBとし、重たくなりすぎないように輪郭も残しています。

歌声とピアノだけというシンプルな編成だからこそ、低域の量だけでなく、ピアノがどのような質感で歌声を支えるかも確認しながら調整しました。


フリモメンも、低くしながら太くしすぎない

フリモメンのEQはこちらです。

BandFreqGainQ / Slope
LC80 Hz―24 dB/Oct
LF Peaking170 Hz-2.0 dBQ 1.4
LMF450 Hz-1.5 dBQ 1.0
MF1.5 kHz+1.25 dBQ 0.8
HMF3.25 kHz+1.5 dBQ 1.2
HF Shelf10 kHz+1.75 dB6 dB
HC17 kHz―12 dB/Oct

Key Shiftによって歌声を1オクターブ下げていますが、EQでは低域をさらに強調する方向にはしていません。

170 Hzを-2 dB、450 Hzを-1.5 dBとし、低い歌声の厚みを少し整理。

1.5 kHzや3.25 kHz、さらに10 kHz付近を少し持ち上げています。

ここでも目指したのは、低く太い男性声というより、低い位置で柔らかく、すっきりと歌う声です。

Vocal Styleで作った方向性を確認しながら、ピアノの中でも歌詞が自然に届くように整えました。


今回はフリモメンを、いつもより少し前へ

初期フェーダーは、

TrackFaderPan
Piano0 dBL65 / R65
フリモメン-4 dBCenter

としています。

フリモメンを使う作品では、普段は-6〜-7 dB程度まで下げることがあります。

実際、「もしもピアノが弾けたなら」では、ピアノ0 dBに対してフリモメンを-6 dBとしました。

今回はそこから2 dBほど歌声を上げ、-4 dBにしています。

「少年時代」を聴きながらバランスを取っていく中で、今回は歌声がもう少し前にある方が、曲の雰囲気に合うように感じたためです。

いつもの数値をそのまま使うのではなく、その曲を実際に聴いたときの印象から調整しています。

PanはピアノをL65 / R65へ広げ、フリモメンは中央。

左右へ広がるピアノの中に、歌声がまっすぐ立つような配置にしています。


リバーブは、ピアノと歌声の距離に少し差をつける

今回使用したRoom Reverbの設定です。

項目設定
Pre10.0 ms
Length+500.00 ms
Mix1.00
TypeRoom
Size4.00 m
Width1.2
Height2.0
Population0.3
Reflexivity0.2
Dampness60%
Dist0.20 m
Asym.+0.10
Plane0.5
GlobalHQmode

Send量は、

  • ピアノ:-16 dB
  • フリモメン:-21 dB

としました。

今回は両者に5 dBの差を付けています。

ピアノには少し多めに残響を送り、空間の広がりを持たせる一方、フリモメンは比較的直接音を残しています。

ピアノを左右へ広げ、残響も少し多めに。

歌声は中央に置き、ピアノより近い位置へ。

大きなホールを作るというより、声とピアノが同じ空間で演奏されている距離感を意識しています。


リミッターは今回も、安全策として

マスターのリミッターは次の設定です。

項目設定
Gain+4 dB
Ceiling-1 dB
Threshold-1 dB
ModeB
AttackFast
Release250 ms

そして、最終的なGain Reductionは0.0 dBでした。

リミッターを使ってピークを積極的に潰し、音量を揃えることはしていません。

最終段で予期しないピークが出たときの安全策として置きながら、ピアノと歌声が持っている強弱はできるだけそのまま残しています。


最終ラウドネス

Youlean Loudness Meter 2で測定した最終値です。

項目測定値
Integrated-18.7 LUFS
Loudness Range5.5 LU
Dynamics (PSR)7.6 LU
Avg. Dynamics (PLR)16.0 LU
Momentary Max-12.4 LUFS
Short-Term Max-15.6 LUFS
True Peak Max-2.7 dBTP

Integratedは-18.7 LUFS。

リミッターのGain Reductionも0.0 dBで、今回も大きく音圧を詰めることなく仕上げています。

声とピアノだけの編成だからこそ、静かなところと少し前へ出るところ、その両方を残したまま一曲として聴けるバランスを目指しました。


懐かしい夏を、少し振り返るように

「少年時代」で描きたかったのは、昔の夏を振り返ったときに、懐かしい景色やあの日の時間がふっとよみがえるような感覚です。

そのため、フリモメンはKey Shiftを-12 smtとして落ち着いた音域へ移しながら、Vocal StyleやEQでは声を重たくしすぎない方向へ。

柔らかく、すっきりした男性の歌声に整えました。

そして今回、音素を個別に変更したのは「おう」に関係する3か所だけ。

細かな調整をほとんど加えなくても自然に歌ってくれたことも、Synthesizer V Studio 2 Proで制作していて印象に残ったところです。

ピアノには少し広がりを持たせ、歌声はいつもより少し前へ。

過ぎていく夏と、遠くなっていく記憶。

その中に残っている楽しかった景色を、声とピアノで静かに振り返るような一幕になればと思います。

声とピアノで、ひとつの物語を。
二音一幕


🎼 使用楽譜

電子楽譜カノン

「少年時代」楽譜ページ

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