作品の裏側

「I LOVE YOU」を宮舞モカとピアノで。静かな歌声で、想いを残す一幕

KOSHIKA

尾崎豊さんの「I LOVE YOU」を、宮舞モカさんの歌声とピアノでカバーしました。

今回目指したのは、感情を強く前へ押し出す歌い方ではなく、静かなピアノのそばで、言葉をひとつずつ置いていくような歌声です。

宮舞モカさんは、明るく張りのある声にもできます。

けれど今回は、その方向へ強く寄せるのではなく、声の高さを下げ、Mellowを中心に組み立てました。

さらに「ウー」と伸ばす声の発音や、語尾の長さ、ピアノの強弱、リバーブまで、実際の聞こえ方を確認しながら調整しています。

この記事では、「I LOVE YOU」を声とピアノだけの一幕として仕上げるまでに行った調整を紹介します。

宮舞モカの歌声を、一オクターブ低くする

今回の宮舞モカさんは、Key Shiftを-12 semitonesに設定しています。

歌唱範囲は、調整後でE3~A4です。

通常の高さでも試しましたが、今回の曲では声が少し高く、可愛らしく聞こえました。

特に高いところでは、こちらが求めていたものよりも、声を強く張って呼びかけているような印象が出ます。

「I LOVE YOU」で欲しかったのは、もっと落ち着いた歌声でした。

そこでKey Shiftを-12 semitonesまで下げ、一オクターブ低い宮舞モカさんで歌わせています。

低くすること自体が目的ではありません。

静かなピアノの中で、無理に感情を押し出さずに歌える高さを探した結果として、今回の位置に落ち着きました。

Mellowを中心に、少しだけ芯を残す

ボーカルスタイルは次のように設定しています。

Style設定値
Soft30%
Mellow70%
Powerful5%
Cool10%
Breathy10%
Breath+0.35

中心となるのはMellow 70%です。

そこへSoftを30%、Coolを10%加えています。

Powerfulは5%だけ。

今回、Powerfulで力強い歌声を作りたいわけではありません。低く落ち着かせた声が弱くなりすぎないよう、ごくわずかに芯を残す程度にしています。

Mellowを主体にした静かな声へ、Coolを少しだけ加える。

「I LOVE YOU」では、そんな少し大人びた宮舞モカさんを目指しました。

音素は、必要なところだけ整える

Synthesizer Vで歌わせるとき、すべての音素を細かく編集しているわけではありません。

そのまま歌わせて自然なら、そのまま使います。

今回も基本的な考え方は同じです。

調整したのは、「おう」と母音が続くところや、促音の「っ」など、実際に聞いて気になった部分です。

78 BPMで長く感じた「っ」

「I LOVE YOU」のテンポは78 BPMです。

今回、「っ」をそのまま歌わせると、場所によっては無音になる時間が長く感じられました。

そこで該当部分だけ音素の時間配分を調整し、言葉の流れが不自然に途切れないようにしています。

これは「遅い曲なら必ず『っ』を短くする」というルールではありません。

同じ促音でも、曲や前後の言葉によって聞こえ方は変わります。

今回の78 BPMの「I LOVE YOU」で実際に聞いたとき、長く感じたため調整しました。

「ウー」は日本語ではなく、英語の「woo」

今回、少し変わった調整をしたのが、

「ウー……ウー……ウー……」

と声を伸ばす部分です。

最初は日本語の「ウー」として歌わせることも考えましたが、Synthesizer V上でノートの言語を英語へ変更し、「woo」と入力して聴き比べました。

すると今回の宮舞モカさんでは、日本語で入力するよりも英語の「woo」の方が柔らかく感じられました。

そのため、完成版では英語の「woo」を採用しています。

「I LOVE YOU」で宮舞モカの「ウー」を英語の「woo」で入力したSynthesizer Vの歌唱データ

ここも「英語の方が正しい」という話ではありません。

同じような母音でも、Synthesizer Vで実際に歌わせると聞こえ方は変わります。

今回は、静かで落ち着いた歌声に馴染んだ方を耳で選びました。

楽譜どおりの長さが、歌として長く感じることもある

一部の語尾では、楽譜に記された音符いっぱいまで歌わせると、少し長く感じるところがありました。

そうした場所では、語尾をわずかに短くしています。

楽譜は演奏を組み立てる大切な基準です。

ただ、ボーカルシンセサイザーでは、入力されたノートの長さと実際に聞こえる言葉の長さが、必ずしも同じ感覚になるとは限りません。

そのため今回は、楽譜を基準に入力したうえで、最後は実際の歌声を聞きながら調整しました。

ピアノは78 BPM。静かな中にも強弱を残す

楽曲のキーはA、テンポは78 BPMです。

二音一幕で使用しているピアノ音源は、今回もAcoustic Piano – Balladです。

ピアノのVelocityは、楽譜の強弱記号を基準に次の値を使用しています。

強弱Velocity
p64
mp72
mf80
「I LOVE YOU」のピアノ全体のVelocity設定

演奏の中心になるのはmpの72とmfの80です。

静かな曲だからといって、すべてを弱いVelocityで揃えているわけではありません。

mpとmfの差を残すことで、静かな演奏の中でもピアノが自然に動くようにしています。

楽譜には2か所、弱くしていくことを示すヘアピン「>」がありますが、今回はそこに追加のVelocity調整を入れていません。

実際に再生してみて特に違和感を感じなかったためです。

楽譜に記号があるから必ず何かを操作するのではなく、そのままで自然なら変えない。

これも今回の調整で大切にしたところです。

最後はpで、優しく伸ばして終わる

pのVelocity 64を使用しているのは、最後のフェルマータがある部分です。

ここは楽譜でもpが指定されています。

最後の音を強く残すのではなく、pの柔らかなタッチで音を伸ばす。

そうすることで、曲をはっきりと閉じるというより、優しく余韻を残しながら終わっていくようにしています。

ピアノEQ――A0まである低音を残しながら整える

今回のピアノで使用している最も低い音はA0です。

EQは次のように設定しました。

BandFrequencyGainQ / Slope
LC24 Hz12 dB/Oct
LF Peaking80 Hz+1 dBQ 1.0
LMF250 Hz-2 dBQ 1.2
MF650 Hz-1.2 dBQ 0.8
HMF3200 Hz-1.5 dBQ 1.2
HF Shelf7000 Hz+0.8 dB6 dB
HC17000 Hz12 dB/Oct

LCは24 Hzです。

最低音にはA0まで使用しているため、低域を大きく切り落とすような設定にはしていません。

80 Hzを+1 dBとする一方で、250 Hzを-2 dB、650 Hzを-1.2 dB。

高域も一方向に持ち上げるのではなく、3200 Hzを-1.5 dB、7000 Hzを+0.8 dBとしています。

特定の帯域を大きく変えて別のピアノにするのではなく、Acoustic Piano – Balladの音を基準に、気になるところだけ整えるという考え方です。

宮舞モカのEQ――低い声を消さず、重くしすぎない

宮舞モカさんのEQは次の設定です。

BandFrequencyGainQ / Slope
LC75 Hz12 dB/Oct
LF Peaking140 Hz+1.2 dBQ 1.0
LMF280 Hz+1.5 dBQ 1.2
MF550 Hz-1.8 dBQ 0.9
HMF2200 Hz+1 dBQ 1.0
HF Shelf8500 Hz+1.5 dB6 dB
HC16500 Hz12 dB/Oct

今回はKey Shift -12 semitonesで、E3~A4という低めの歌唱範囲です。

その低さを選んでおきながら、EQで低い成分を大きく削ってしまっては、今回欲しかった歌声から離れてしまいます。

LCは75 Hzとし、140 Hzを+1.2 dB、280 Hzを+1.5 dB。

一方で550 Hzは-1.8 dBとしています。

さらに2200 Hzを+1 dB、8500 Hzを+1.5 dB。

低い宮舞モカさんの厚みを残しながら、暗く重たい声になりすぎないよう、実際の聞こえ方を確認しながら整えました。

ピアノを左右へ、歌声を中央へ

フェーダーとPanは次の設定です。

TrackFaderPan
Piano0 dBL65 / R65
宮舞モカ-2.5 dBC0

ピアノは左右へ広げ、宮舞モカさんは中央に配置しています。

歌声をピアノより大きくして前へ押し出すのではなく、ピアノを0 dB、声を-2.5 dBとしました。

ただし、単純に声を小さくしているわけではありません。

EQでそれぞれの帯域を整え、中央の歌声と左右のピアノを分けることで、声とピアノの両方が聞こえるバランスを作っています。

リバーブは、小さな空間を感じる程度に

リバーブは次の設定です。

Parameter設定値
Pre12.0 ms
Length750 ms
Mix1.00
TypeRoom
Size3.8 m
Width1.4
Height2.6
Population0.1
Reflexivity0.3
Dampness45%
Dist0.15 m
Asym.+0.10
Plane0.25
HQ modeON

Sendは、

  • Piano:-14 dB
  • 宮舞モカ:-19 dB

です。

大きなホールのような長い残響を作るのではなく、比較的小さな空間を意識しています。

特に歌声は-19 dBと、ピアノよりリバーブへのSendを少なくしました。

中央のモカさんは比較的直接音を残し、ピアノには少し多く空間を持たせる。

残響そのものを聞かせるというより、声とピアノが演奏されている場所を感じられる程度の空間を目指しています。

Limiterは、演奏を強く潰さない

Limiterは次の設定です。

Parameter設定値
Gain+5.5 dB
Ceiling-1 dB
Threshold-1 dB
ModeB
AttackSlow
Release220 ms

今回はAttackをSlowにしています。

Limiterで瞬間的なピークを積極的に叩いて音圧を作ることが目的ではなく、演奏の強弱をできるだけ残しながら最終的な音量を整えています。

CeilingとThresholdはともに-1 dB。

このあたりのLimiterの使い方については、それだけでも一つのテーマになるため、今回は設定と考え方の紹介に留めます。

完成音源をラウドネスメーターで確認する

完成した音源をYoulean Loudness Meter 2 Proで測定しました。

測定項目結果
Integrated-19.5 LUFS
Loudness Range6.3 LU
Dynamics (PSR)12.3 LU
Avg. Dynamics (PLR)15.1 LU
Momentary Max-13.5 LUFS
Short-Term Max-15.9 LUFS
True Peak Max-4.4 dBTP
「I LOVE YOU」宮舞モカの完成音源をYoulean Loudness Meter 2 Proで測定した結果

Integratedは-19.5 LUFSとなりました。

この数値を最初から目標にして音を小さくしたわけではありません。

声とピアノのバランス、Velocity、EQ、空間を整え、演奏として自然に聞こえるところを探した結果として、この値になっています。

True Peak Maxも-4.4 dBTPで、LimiterのCeilingである-1 dBには届いていません。

音量を限界まで押し上げるよりも、静かな部分と少し前へ出る部分、その両方を残すことを優先しました。

静かに歌うために、必要なところだけ変える

今回の「I LOVE YOU」では、大きな仕掛けを加えたわけではありません。

宮舞モカさんを一オクターブ低くする。

Mellowを中心に歌声を作る。

「っ」の間が長ければ整える。

「ウー」は、日本語と英語を聴き比べて柔らかく感じた「woo」を使う。

語尾が長く感じれば、少しだけ短くする。

ピアノは楽譜のmp、mf、pを基準に演奏し、そのままで自然に聞こえるところには余計な調整を加えない。

そして最後は、pのピアノをフェルマータで優しく伸ばす。

どれも小さな調整です。

けれど、その小さな選択を同じ方向へ積み重ねることで、静かなピアノのそばで、宮舞モカさんが落ち着いて歌う「I LOVE YOU」へ近づけていきました。

強い感情を大きな声で伝えるのではなく、静かに残す。

そんな一幕としてお聴きいただけたら嬉しいです。

声とピアノで、ひとつの物語を。
二音一幕


🎼 使用楽譜
電子楽譜カノン
「I LOVE YOU」楽譜ページ

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