「ひまわり」を重音テトとピアノで。高い歌声を、穏やかに残す一幕
福山雅治さんの「ひまわり」を、重音テトさんとピアノでカバーしました。
今回の「ひまわり」で目指したのは、強く感情を押し出す歌ではありません。
少し遠い時間を振り返るような、穏やかな歌声。
ピアノも大きく盛り上げるのではなく、その歌声のそばで静かに流れるような演奏を意識しました。
制作を振り返ってみると、今回は音素を一つずつ細かく作り込むような調整をほとんど行っていません。
必要なところだけ整え、それ以外は重音テトさんの素直な歌唱を残す。
そんな一曲になっています。
高い音域を、Mellow主体で穏やかに歌う
今回のボーカルスタイルは、次のように設定しました。
| 項目 | 設定 |
|---|---|
| Power | 5% |
| Mellow | 80% |
| Low | 35% |
| Breath | +0.15 |
| 歌唱レンジ | D4~D5 |
中心となっているのは、Mellow 80%です。
そこへLowを35%加え、Powerは5%に抑えました。
今回の歌唱レンジはD4~D5で、重音テトさんとしては比較的高い音域を使っています。
ただ、高い音を明るく強く響かせる方向にはしていません。
高いところまで歌いながらも、落ち着いた質感を保つこと。
「ひまわり」で欲しかった回想するような雰囲気に合わせて、Mellowを大きく使っています。
Breathも+0.15に留めました。
息の成分を表現として目立たせるというより、歌声の中にわずかな柔らかさを加える程度です。
今回は、音素を調整していない
二音一幕の制作では、必要に応じて母音や子音の長さを細かく調整することがあります。
しかし、「ひまわり」では個別の音素調整を行っていません。
一部の語尾についてはSynthesizer VのAIリテイクを数回試し、その中から自然に感じた歌い方を選んでいます。
それ以外は、ほぼそのままです。
制作では、調整できる場所をすべて調整することが目的ではないと考えています。
発音を聴いて違和感があれば直す。
歌い回しを変えたい理由があれば手を加える。
しかし、そのままの歌唱が曲に合っているのであれば、無理に変える必要はありません。
今回はボーカルスタイルを決めた段階で、かなり「ひまわり」に合う歌声になっていました。
手を加えなかったことも、ひとつの判断です。
ピアノはBPM 68。強弱も二つだけ
ピアノのテンポは68 BPMです。
Velocityの基準も、今回は非常にシンプルです。
| 強弱 | Velocity |
|---|---|
| mp | 72 |
| mf | 80 |
使用しているのは、基本的にmpとmfの二つだけです。
大きな強弱差を何段階にも分けるのではなく、穏やかな流れの中で必要な変化だけをつけています。
ピアノの最低音はG0です。
G0の基音は約24.5Hzですが、この音域が曲中で頻繁に登場するわけではありません。比較的よく使われる低音はC1付近からです。
この音域の使われ方も確認しながら、低域のEQを決めています。
ピアノEQ――低音を消すのではなく、必要な厚みを残す
ピアノのEQは次のように設定しました。
| Band | Frequency | Gain | Q / Slope |
|---|---|---|---|
| LC | 25 Hz | — | 12 dB/Oct |
| LF Peaking | 120 Hz | +1.5 dB | Q 1.0 |
| LMF | 280 Hz | -2.0 dB | Q 1.2 |
| MF | 600 Hz | -1.5 dB | Q 0.8 |
| HMF | 2.5 kHz | -1.0 dB | Q 1.5 |
| HF Shelf | 8 kHz | +1.0 dB | 6 dB |
| HC | 15 kHz | — | 12 dB/Oct |
ローカットは25Hzから12dB/Octで入れています。
最低音のG0が約24.5Hzなので、ちょうどその付近から緩やかに減衰する設定です。
ただし、G0付近は登場頻度が高くありません。
もしこの最低域を曲の中で頻繁に使用していたなら、20~22Hz付近までローカットの位置を下げていたかもしれません。
一方で120Hzは1.5dB持ち上げています。
低音そのものを軽くするのではなく、必要な厚みは残しながら、280Hzから600Hz付近を少し抑えることで中低域を整理しました。
高域についても、2.5kHzを少し抑え、8kHzからわずかに持ち上げています。
強いアタックを前へ押し出すよりも、穏やかなピアノの響きを残すための調整です。
歌声とピアノは、音量だけで分けない
重音テトさんのEQは次の設定です。
| Band | Frequency | Gain | Q / Slope |
|---|---|---|---|
| LC | 180 Hz | — | 24 dB/Oct |
| LF Peaking | 280 Hz | +1.5 dB | Q 1.5 |
| LMF | 600 Hz | +1.0 dB | Q 1.0 |
| MF | 1.2 kHz | -1.5 dB | Q 1.2 |
| HMF | 3.5 kHz | +1.0 dB | Q 0.8 |
| HF Peaking | 7.5 kHz | -1.0 dB | Q 2.0 |
| HC | 16.5 kHz | — | 12 dB/Oct |
ピアノでは280Hzを-2dB、600Hzを-1.5dB。
一方、歌声では280Hzを+1.5dB、600Hzを+1dBとしています。
単純に歌声のフェーダーを上げてピアノより前へ出すのではなく、それぞれの音が重なりすぎないように整えています。
定位とフェーダーは、
| Track | Pan | Fader |
|---|---|---|
| Piano | L60 / R60 | 0 dB |
| Vocal | Center | -4 dB |
としました。
ピアノを左右へ広げ、その中央に歌声を配置しています。
歌声のフェーダーはピアノより4dB下です。
二音一幕では、ボーカルだけを大きく前へ出すことを基本にはしていません。
声とピアノの両方が演奏しているように感じられる距離を探しています。
リバーブは、大きく響かせるためではなく、距離を作るために
「ひまわり」のリバーブはRoomタイプを使用しています。
| 項目 | 設定 |
|---|---|
| Pre | 20 ms |
| Length | 1.4 s |
| Mix | 1.0 |
| Type | Room |
| Size | 6.00 m |
| Width | 0.75 |
| Height | 0.40 |
| Population | 0.65 |
| Reflexivity | 0.10 |
| Dampness | 60.0% |
| Dist | 0.80 m |
| Asym. | +0.20 |
| Plane | 0.60 |
| HQ mode | ON |
センド量は、
- ピアノ:-15dB
- 歌声:-18dB
です。
ピアノ側を歌声より3dB多くリバーブへ送っています。
二音一幕では、大きなステージやホールで演奏しているような残響を積極的に作ることはあまりありません。
ヘッドホンやイヤホン、スピーカーから聴いたとき、遠くの舞台を眺めているのではなく、目の前で声とピアノの生演奏を聴いているように感じられることを目指しています。
そのため、残響そのものを目立たせるというより、直接音を残しながら、その周囲に演奏している空間が感じられる程度の響きを加えています。
ピアノが左右に広がり、その中央で重音テトさんが歌う。
今回も、その小さな空間を作るためのリバーブです。
最終段でも、強弱をなるべく残す
最終段のリミッターは次の設定です。
| 項目 | 設定 |
|---|---|
| Gain | +5.5 dB |
| Ceiling | -1.0 dB |
| Threshold | -1.0 dB |
| Mode | B |
| Attack | Normal |
| Release | 200 ms |
二音一幕では、音圧をできるだけ高く揃えることを目標にはしていません。
ピアノや歌声につけた強弱を、完成音源にもできるだけ残したいからです。
そのため、コンプレッサーで音量差を積極的に縮める処理も現在は常用していません。
演奏の段階で作った小さな音と大きな音。
その差を最終段で必要以上に均さないようにしています。
完成音源を測定する
完成した音源をYoulean Loudness Meter 2 Proで測定しました。
結果は次のようになりました。
| 項目 | 測定値 |
|---|---|
| Integrated | -17.8 LUFS |
| Loudness Range | 10.0 LU |
| Dynamics (PSR) | 10.3 LU |
| Avg. Dynamics (PLR) | 14.9 LU |
| Momentary Max | -9.2 LUFS |
| Short-Term Max | -12.5 LUFS |
| True Peak Max | -2.8 dBTP |

Integratedは-17.8 LUFS。
そして今回特徴的だったのが、Loudness Rangeの10.0 LUです。
音量を均一に揃えた仕上がりではなく、曲の中で静かなところと大きくなるところの差が残っています。
リミッターのCeilingとThresholdはともに-1dBですが、実測のTrue Peak Maxは-2.8dBTPでした。
設定した上限まで無理に音を押し上げるのではなく、必要な音量を確保したところで止めています。
手を加えないことも、音作りのひとつ
今回の「ひまわり」を改めて振り返ってみると、制作内容はとてもシンプルでした。
音素は調整していません。
ピアノのVelocityもmpとmfの二種類。
歌声もPowerをわずか5%にして、Mellowを中心とした穏やかな歌唱です。
だからといって、何も考えずに作ったわけではありません。
どこを変えるかと同じくらい、どこを変えずに残すかも制作の中では大切だと考えています。
高い音域を強く歌わせず、静かな歌声として残す。
ピアノの低音を必要以上に削らない。
残響を大きく広げるのではなく、目の前に演奏している空間を作る。
そして、最後まで強弱を潰しすぎない。
細かな加工を重ねるのではなく、必要なところだけを整えることで作った「ひまわり」です。
声とピアノで、ひとつの物語を。
二音一幕