「Sincerely」を重音テトとピアノで。想いを一通の手紙に綴るような一幕
TRUEさんの「Sincerely」を、重音テトさんの歌声とピアノでカバーしました。
今回イメージしたのは、想いをひとつずつ言葉に綴っていくような弾き語りです。
「愛してる」という言葉の意味を探しながら、誰かの想いを手紙にして届けていくヴァイオレット。
その姿に重ねるように、テトさんの歌声にも、まだ形にならない気持ちをひとつずつ言葉へ変えていくような繊細さを込めたいと考えました。
そこで歌声は、力強く前へ押し出す方向ではなく、Mellowを中心とした柔らかな声に。ピアノや残響についても、大きな空間へ響かせるというより、小さな会場で近くから演奏を聴いているような距離感を意識しています。
今回は、そんな「Sincerely」を声とピアノだけの一幕へ仕上げるまでに行った、重音テトさんのVocal Style、ピアノのVelocity、EQ、リバーブ、最終的なラウドネスについて紹介します。
Mellowを中心に、繊細なテトさんの歌声へ
今回のVocal Styleは、次のように設定しました。
| Vocal Style | 設定値 |
|---|---|
| Joyful | 10% |
| Cute | 30% |
| Mellow | 70% |
| Low | 15% |
| Breath | +0.25 |
歌唱範囲はA3〜E5です。
今回の中心にしたのは、70%まで上げたMellowです。
柔らかな声を軸にCuteを30%、Lowを15%加え、Joyfulは10%に抑えています。
「Sincerely」で目指したのは、感情を強く押し出して届けるというより、まだうまく形にできない想いを、一つずつ言葉へ置き換えていくような歌声です。
そのため、テトさんの持つ存在感は残しながら、柔らかく繊細な方向へ歌声を整えました。
ブレスパラメータは+0.25。息の成分も加えていますが、息そのものを目立たせるのではなく、今回の柔らかな歌声になじむところを探しています。
音素調整は、必要なところだけ
音素については、これまでの作品でも行っている「おう」に関係する発音を中心に調整しています。
歌として聴いたときに母音のつながりが気になる箇所を整える、二音一幕では比較的いつもの調整です。
今回は「Sincerely」だけで行った特殊な音素処理が中心ではないため、音素編集画面のスクリーンショットは掲載していません。
そのままで自然に聞こえるところは残し、必要なところだけに手を加えています。
Tempo 144、何度も変わる調性
ピアノはTempo 144 BPM。
調性は一曲を通して固定ではなく、
D → F → D → F → D → F → G♭
と変化していきます。
使用するピアノの音域もG0〜D♭6と広く、低音から高音までを使った伴奏になっています。
使用しているピアノ音源は、二音一幕で共通して使用しているAcoustic Piano – Balladです。
楽譜の音符そのものを変えるのではなく、書かれている音や強弱をもとに、一音ずつMIDIへ入力して演奏を作っています。
今回は、左手のVelocityを一律4下げてみる
「Sincerely」のピアノでは、普段とは少し違うVelocityの基準を試しました。
| 強弱 | 左手 | 右手 |
|---|---|---|
| mp | 68 | 72 |
| mf | 76 | 80 |
| f | 84 | 88 |
すべての基準で、左手を右手より4低くしています。
実際のピアノ演奏では、左右を機械的に同じ強さで弾くわけではなく、旋律や伴奏、それぞれの音域などを聴きながらバランスが取られます。
そこで今回は、伴奏を担う左手を少し控えめにすることで、ピアノ全体のバランスがどう変わるのかを試してみました。
また、「Sincerely」の雰囲気とテトさんの柔らかな歌声を考えると、低音側を少しすっきりさせた方が合うのではないか、という狙いもありました。
ただ、完成した音源を聴いた結果、左手を一律4下げたことでどの程度の違いが生まれたのかは、自分でもはっきりとは判断できませんでした。
左右を同じVelocityにした完成版との比較測定も行っておらず、ラウドネスについても最終的な完成音源だけを測定しています。
そのため、今回の結果から「左手を4下げると低域がすっきりする」と結論づけることはできません。
あくまで「Sincerely」で試してみた、一つのVelocity設定として記録しておきます。
ピアノの低域を残しながら、少しすっきりした方向へ
ピアノのEQは、実際に使用したPro EQ³の画面を掲載します。

低域から中低域を少し控えめにしながら、中高域にはわずかに輪郭を加えています。
Low Cutはかなり低い位置に置いているため、ピアノの低音そのものを大きく削る調整ではありません。
今回試した左手のVelocity調整と合わせて、低域を完全に消してしまうのではなく、「Sincerely」とテトさんの歌声に対してピアノが重くなりすぎない方向を探りました。
細かな周波数やGain、Qについては、上のスクリーンショットに実際の設定値を残しています。
Mellowの柔らかさを残しながら、テトさんの輪郭を整える
テトさんのEQについても、細かな数値を一覧にするのではなく、実際の設定画面を掲載します。

歌声では不要な低域を整理しながら、中域から高域を少しずつ調整しています。
今回のVocal StyleではMellowを70%使用しているため、その柔らかな歌声を中心にしながら、ピアノと重なったときにも言葉の輪郭が残るように整えました。
EQで別の声質へ大きく変えるというより、Vocal Styleで作った歌声を実際のピアノと合わせ、その中で気になったところを少しずつ調整しています。
ピアノを左右へ、テトさんを中央へ
ミックスを始めるときのフェーダーは、
- Piano:0 dB
- 重音テト:-3.5 dB
としています。
PanはピアノをL65 / R65へ広げ、テトさんはCenterです。
左右へ広がったピアノの中央にテトさんの歌声を置く、二音一幕で基本としている配置です。
ここから実際に曲を聴きながら、声とピアノの距離やバランスを整えていきます。
エコーを抑え、小さな会場で聴くような空間へ
今回のリバーブは、広いホールで豊かに響かせるような音ではありません。
イメージしたのは、比較的小さな会場で、演奏を近くから聴いているような空間です。
歌声やピアノの後ろに分かりやすいエコーを作るのではなく、直接音を中心にしながら、その周囲に小さな演奏空間が感じられる程度の残響へ調整しました。

Sendは、
- Piano:-16 dB
- 重音テト:-20 dB
です。
ピアノ側へ少し多く残響を送り、テトさんの歌声は比較的近い位置に残しています。
今回の「一通の手紙」のような歌唱を考えても、遠くから響いてくる声というより、近い場所から一つずつ言葉が届くような距離感を大切にしました。
リバーブのEQでも、残響をコンパクトに
Room Reverbの後段には、専用のEQを入れています。

ここで調整しているのは、元のテトさんやピアノではなく、リバーブから返ってくる残響成分です。
低域と高域を整理し、中低域も少し抑えています。
今回の目的は残響そのものを目立たせることではなく、歌声とピアノの周囲に小さな空間を作ること。
リバーブのEQでも残響を広げすぎず、近い距離で演奏を聴いている感覚を崩さないようにしています。
リミッターでは、ピークを軽く整える
マスターにはリミッターを使用しています。
設定は次のとおりです。
| 項目 | 設定 |
|---|---|
| Gain | +5 dB |
| Ceiling | -1 dB |
| Threshold | -1 dB |
| Mode | B |
| Attack | Fast |
| Release | 150 ms |
最大Gain Reductionは約1.09 dBでした。
今回は実際に1 dBほどリミッターが動いていますが、大きく音を押さえ込んで全体を均一にするような使い方ではありません。
演奏の強弱を残しながら、突出したピークを軽く整える程度にしています。
最終的なラウドネスを確認
完成した音源は、Youlean Loudness Meter 2で測定しています。

最終的なIntegratedは**-15.3 LUFS**。
Loudness Rangeは6.9 LU、True Peak Maxは**-1.0 dBTP**となりました。
スクリーンショットではこのほか、Dynamics(PSR)9.3 LU、Avg. Dynamics(PLR)14.3 LU、Momentary Max -7.1 LUFS、Short-Term Max -10.8 LUFSなども確認できます。
今回も音量を一様に揃えるのではなく、静かに言葉を置くところと、音楽が大きく動くところ、その両方を残したまま仕上げています。
一通の手紙のように、言葉を届ける
「Sincerely」で作りたかったのは、声とピアノを大きく響かせるステージではありませんでした。
まだ形にならない気持ちを、一つずつ言葉にしていく。
そんな姿を重ねるように、テトさんはMellowを中心とした柔らかな歌声にしました。
ピアノでは、左手のVelocityを一律4下げるという新しい設定も試しています。効果を明確に確認できたわけではありませんが、こうした試行も含めて、今回の音を作っていきました。
EQでは低域が重くなりすぎないように整え、リバーブでは大きな残響を作らず、小さな会場で近くから演奏を聴いているような距離感へ。
そして、その中央からテトさんの言葉が届くように。
大切な人へ届ける、一通の手紙のような一幕。
そんな「Sincerely」として、お聴きいただけたら嬉しいです。
声とピアノで、ひとつの物語を。
二音一幕
🎼 使用楽譜
電子楽譜カノン