作品の裏側

「lulu.」を重音テトとピアノで。低い歌声から、軽やかに進む一幕

KOSHIKA

「lulu.」を、重音テトさんの歌声とピアノでカバーしました。

今回の歌声は、いつもの重音テトさんよりも低いところから始まります。

Key Shiftは-12 semitones。一オクターブ低い声です。

そこから曲が進み、GからA♭へ転調しても、Key Shift自体は変えていません。

低いテトさんから始まり、楽曲そのものが高い音域へ移っていくことで、少しずつ馴染みのあるテトさんの声へ戻っていく。

そんな流れを目指しました。

もう一つ、今回の大きな変更がテンポです。

使用した楽譜では175 BPMが指定されていますが、今回の演奏は158 BPM

ただ遅くしたかったわけではありません。

175 BPMで歌わせたときに感じた、少し早足で先を急いでいるような印象を和らげながら、曲が持つ軽快さは残したい。

目指したのは、のんびり歩くような速さではなく、足取り軽く、生き生きと歩いていくような速さです。

ピアノも全編mp。

速さや強さで押していくのではなく、歌声と演奏に少し余裕を残しながら前へ進む。

この記事では、そのために行った歌声、ピアノ、EQ、空間、ラウドネスの調整について紹介します。

一オクターブ低い重音テトから始める

今回の重音テトさんは、Key Shiftを-12 semitonesに設定しています。

Vocal Style

  • Joyful:10%
  • Cute:5%
  • Mellow:25%
  • Low:15%
  • Mini:5%
  • Breath:+0.25
  • Key Shift:-12 semitones

一オクターブ低い声から始めた理由の一つは、ほかの「lulu.」のカバーと歌声の方向が重なりすぎないようにしたかったことです。

通常の音域から始まるカバーがある中で、二音一幕では少し違う入口を作れないかと考えました。

もう一つの理由は、高音へ進んでいったときの歌声です。

そのまま高い方向へ押し上げていくと、テトさんが無理をして歌っているような印象にならないか気になりました。

あまり高くすると、今回求めていた余裕のある歌声ではなく、消え入りそうな声へ近づく可能性もあります。

そこで試しに一オクターブ下げてみると、低いテトさんでも綺麗に曲へ入ることができました。

それなら、高い声へ追い込んでいくのではなく、

低い重音テトから始まり、曲が進むにつれて馴染みのある声へ戻っていく。

そんな流れで最後まで歌ってもらうことにしました。

Key Shiftは変えず、楽曲の音域が高い方へ進んでいく

「lulu.」は途中でGからA♭へ転調します。

実際に使用している歌唱音域を確認すると、転調前と転調後では次のようになっています。

区間歌唱音域
転調前D3~E5
転調後A♭3~F5

最高音だけを見ると、E5からF5への変化です。

ただ、ピアノロール全体を眺めると、転調後は使用される音符の位置そのものが全体的に高い側へ移っています。

ここでKey Shiftを変更しているわけではありません。

転調前も転調後も、最初から最後まで-12 semitones固定です。

設定を途中で変更して声を高くするのではなく、同じ低音テトの設定のまま、楽曲そのものの音域変化によって声の印象が変わっていく。

その結果として、低いテトさんから始まり、曲が進むにつれて馴染みのあるテトさんの声へ近づいていくような流れになりました。

175 BPMから158 BPMへ。急がず、軽快に進む

使用した楽譜の指定テンポは175 BPMです。

最初はその速さでも確認しました。

速すぎて歌えないわけでも、演奏が走っているわけでもありません。

ただ、実際にテトさんへ歌ってもらうと、少し早足で先を急いでいるような、どこか忙しそうな印象がありました。

そこでテンポを少しずつ確認し、今回は158 BPMにしています。

目指したのは、ゆっくりと歩くような穏やかさではありません。

足取り軽く、生き生きと歩いていくような速さ。

曲が持つ軽快さや前へ進む感覚は残しながら、歌声には少し余裕を持たせる。

そのバランスとして158 BPMを選びました。

今回の低音テトとも、この速さがよく馴染みました。

声を高音へ追い込まず、テンポでも急かさない。

ただし、曲そのものの生き生きとした動きは失わない。

今回の「lulu.」を作るうえで、このテンポ変更は大きな要素になっています。

音素調整は「おう」系だけ

今回、歌声の音素はほとんど調整していません。

手を加えたのは、これまでの作品でも調整してきた「おう」と続く発音です。

たとえば「どう」のような発音では、Synthesizer V上で「o」と「u」の時間配分を確認し、実際の聞こえ方を聴きながら境界を調整しています。

「lulu.」重音テトの「どう」の音素タイミング調整

画像キャプション案:
「どう」の母音が自然につながるように、実際の聞こえ方を確認しながら音素の時間配分を調整。

それ以外については、ほぼ入力したままです。

今回のテンポは158 BPMと、二音一幕の作品としては速めです。

これまで個別に調整することのあった「っ」のような促音も、今回はそのままで自然に聞こえました。

AI Retakeも使用していません。

個別に調整した「おう」系の音素を除けば、ほぼベタ打ちの素直な歌唱です。

調整できる場所があるから手を加えるのではなく、実際に聴いて、そのままで自然なら残す。

今回は、素直な歌唱がそのまま作品に馴染みました。

ピアノは158 BPMでも全編mp

ピアノも、今回の「余裕」を作る重要な要素です。

テンポは158 BPMですが、強弱は曲を通してmp

基本Velocityは左右とも72です。

158 BPMという軽快さの中を、mpの柔らかな打鍵で進んでいく。

足取りの軽さで前へ進むようなピアノを意識しています。

ただし、一か所だけ基本値の72を崩した部分があります。

同じ音の繰り返しを、同じ強さで弾かない

D1とD2を繰り返す部分です。

「lulu.」のD1とD2を繰り返すピアノ部分のVelocity調整

この部分では、一音ずつ次のVelocityにしています。

66 / 63 / 60 / 62 / 59 / 61 / 60 / 62 / 68 / 65 / 61 / 63 / 60 / 62 / 58 / 60

58~68の範囲で、一音ずつ強さを変えています。

それ以外のピアノは、基本的にVelocity 72のままです。

同じD1とD2を繰り返す音型まで72で綺麗に揃えてしまうと、そこだけ打ち込みらしい均一さが気になりました。

そこで、この反復部分だけ少しずつ強さを変えています。

全編mpだから、すべて同じVelocityにするわけではありません。

今回の72は、あくまでmpを作るための基準値です。

実際に聴いて自然なら72のまま。

均一さが気になるところだけ、その基準から外す。

今回のピアノでも、必要なところだけを調整しています。

ピアノEQ――柔らかさを残しながら整える

ピアノのEQは次の設定です。

BandFrequencyGainQ
LC25 Hz12 dB/Oct
LF Shelf120 Hz-2 dB6 dB
LMF350 Hz-2.5 dB1.2
MF1200 Hz+1.5 dB0.8
HMF3500 Hz-1.5 dB1.5
HF Shelf8000 Hz+2 dB6 dB
HC16000 Hz12 dB/Oct

120 Hzを-2 dB、350 Hzを-2.5 dBとして、低域から低中域を少し整理しています。

一方で1200 Hzは+1.5 dB。

3500 Hzは-1.5 dBとし、8000 HzはShelfで+2 dBにしています。

今回のピアノは全編mpです。

EQで強いピアノへ変えるのではなく、mpの柔らかな打鍵を残したまま、曲の中で聞き取りやすいバランスへ整えています。

低いテトを残しながら、暗くしすぎないEQ

重音テトさんのEQは次の設定です。

BandFrequencyGainQ
LC75 Hz24 dB/Oct
LF130 Hz+1.5 dB1.5
LMF280 Hz-2 dB2.0
MF1000 Hz-1.5 dB1.0
HMF3000 Hz+2 dB1.2
HF Shelf7500 Hz+2.5 dB6 dB
HC17000 Hz12 dB/Oct

今回は一オクターブ低いテトさんなので、低い歌声の厚みを残すことも大切です。

LCは75 Hz

130 Hzを+1.5 dBとする一方、280 Hzは-2 dB。

低域を一律に増やすのではなく、必要な厚みを残しながら整理しています。

さらに3000 Hzを+2 dB、7500 HzをShelfで+2.5 dB。

低い歌声だからといって全体を暗くするのではなく、高い帯域の明瞭さも残しました。

低音テトらしい落ち着きと、今回の曲に必要な軽さ。

その両方を残すための調整です。

歌声は中央、ピアノはいつもより広く

フェーダーは、

  • Piano:0 dB
  • 重音テト:-3.5 dB

Panは、

  • Piano:L85 / R85
  • 重音テト:C

です。

今回のピアノは、二音一幕でよく使用するL65/R65よりも左右へ大きく広げています。

その中央に低いテトさんの歌声を置きました。

ただし、左右へ広げたからといって、残響まで大きな空間にしているわけではありません。

今回の空間では、左右への広がりと、残響の長さを別々に考えています。

左右には広く、残響は短く

リバーブは次の設定です。

Main

  • Pre:5.0 ms
  • Length:650 ms
  • Mix:1.00

Room

  • Type:Room
  • Size:3.5 m
  • Width:1.00
  • Height:0.5

Character

  • Population:0.2
  • Reflexivity:0.22
  • Dampness:55%

Geometry

  • Dist:0.15 m
  • Asym:+0.15
  • Plane:0.5
  • HQ:ON

Sendは、

  • Piano:-14 dB
  • 重音テト:-18 dB

です。

ピアノはPanでL85/R85まで広げていますが、Reverb Lengthは650 ms

Room Sizeも3.5 mとしています。

158 BPMで細かく音が進んでいく中、長い残響を重ねるよりも、短い残響で空間を作る方向を選びました。

ピアノそのものは左右へ大きく広がる。

しかし、残響が長く奥へ伸び続けるような空間にはしない。

横方向には広く、残響はコンパクトに。

今回の空間は、そんな組み合わせになっています。

また、Sendはピアノ-14 dB、歌声-18 dB。

歌声よりピアノへ少し多く残響を送り、中央のテトさんは比較的直接音を残しています。

残響そのものを聴かせるのではなく、演奏が行われている空間を感じられる程度に整えました。

全編mpの演奏を変えず、最後に音量感を整える

Limiterは次の設定です。

  • Gain:+6 dB
  • Ceiling:-1 dB
  • Threshold:-1 dB
  • Mode:B
  • Attack:Normal
  • Release:120 ms

今回のGainは+6 dB。

二音一幕のしっとりした作品よりも、少し強めにしています。

今回の演奏では、指定175 BPMから158 BPMへテンポを落とし、ピアノも全編mpとしています。

テンポやVelocityで勢いを強くするのではなく、演奏そのものには余裕を残しました。

しかし、だからといって完成音源まで小さくする必要はありません。

ピアノのVelocityを上げれば、単純な音量だけでなく打鍵の表情そのものが変わります。

今回はmpの音色を残したかったため、音量を得るためにmfやfへ変更することはしませんでした。

そこで最終段ではLimiter Gainを+6 dBとしています。

目的は大きな音圧を作ることではなく、ほかの音楽と並んだときに極端に引っ込んで聞こえない程度の音量感へ整えることです。

演奏には余裕を残す。
完成音源としての存在感は、最後に整える。

今回は、この二つを分けて考えました。

完成音源のラウドネス

Youlean Loudness Meter 2 Proで完成音源を測定した結果です。

項目測定値
Integrated-17.1 LUFS
Loudness Range5.9 LU
Avg. Dynamics(PLR)16.0 LU
Momentary Max-8.9 LUFS
Short-Term Max-11.9 LUFS
True Peak Max-1.1 dBTP
「lulu.」完成音源をYoulean Loudness Meter 2 Proで測定した結果

Limiter Gainは+6 dBですが、Integratedは-17.1 LUFS。

True Peak Maxは-1.1 dBTPとなりました。

数値をできるだけ大きくすることは、今回も目的にしていません。

175 BPMから158 BPMへ落としたテンポ。

全編mpのピアノ。

余裕を持たせた低音テト。

そうして作った演奏の表情を残しながら、完成音源としては少ししっかりした音量感へ整えています。

速さで押すのではなく、軽やかに進む

今回の「lulu.」では、いくつか普段とは違う設定を使いました。

重音テトさんは全編-12 semitones。

楽譜指定175 BPMに対して、演奏は158 BPM

ピアノは速い曲でありながら全編mp

音素調整は「おう」系を除けばほとんど行わず、AI Retakeも使用していません。

ピアノも基本Velocity 72のままですが、D1/D2の反復だけは一音ずつ強さを変えています。

PanはL85/R85まで広げながら、Reverb Lengthは650 ms。

そして最後にLimiter Gainを+6 dB。

それぞれを見ると違う方向の設定にも見えます。

ただ、今回目指したものは共通しています。

声を高音へ追い込まない。

テンポで急かさない。

ピアノを強さで押さない。

だからといって、ゆっくり、弱々しくするわけでもありません。

足取り軽く、生き生きと前へ進んでいく。

その中で、低いテトさんから始まった歌声が、曲が進むにつれて馴染みのあるテトさんへ近づいていく。

必要なところだけ手を加え、そのままで自然なところは変えない。

今回は、そんな作り方が特によく表れた一幕になりました。


🎼 使用楽譜
電子楽譜カノン
「lulu.」楽譜ページ

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