音のこと

なぜ生演奏ではなく、MIDIでピアノを作るのか。歌声と演奏を組み立てる二音一幕の制作方法

MIDIのピアノロールを表示したパソコンとピアノの鍵盤が並ぶ音楽制作環境
KOSHIKA

二音一幕では、Synthesizer Vによる歌声とピアノを組み合わせて、さまざまな楽曲をカバーしています。

ピアノの演奏には、実際に楽器を弾いて録音する方法もあります。しかし、二音一幕で使用しているピアノは、生演奏を録音したものではありません。

楽譜をもとに音符を一音ずつMIDIへ入力し、ピアノ音源を使って演奏を作っています。

なぜ、生演奏ではなくMIDIなのか。

その理由は、MIDIの方が優れた演奏になるから、というものではありません。

音声合成の歌声とピアノを組み合わせ、一つの演奏として丁寧に仕上げていくうえで、MIDIという方法が二音一幕の制作に合っているからです。

今回は、生演奏の魅力にも触れながら、二音一幕がMIDIピアノを選んでいる理由と、実際の制作方法についてお話しします。

生演奏には、その瞬間に生まれる音楽がある

生演奏の魅力の一つは、同じ楽譜を弾いても、毎回まったく同じ演奏にはならないことです。

鍵盤を押す強さ、音の長さ、次の音へ移るタイミング。

そうした細かな違いが重なり、その瞬間ならではの音楽が生まれます。

例えば、ゆったりとした曲では、フレーズの終わりで少し間を取ることがあります。盛り上がる部分では、自然と演奏が前へ進むように感じられることもあります。

楽譜に書かれた音符は同じでも、実際の演奏には、演奏者の呼吸や音楽の流れが表れます。

もちろん、クリックに合わせて安定したテンポで演奏することもできます。演奏技術の高い方であれば、テンポを保ちながら豊かな表情を付けることもできるでしょう。

一方で、二音一幕の制作環境では、一曲を通して安定したテンポでピアノを演奏し、その録音に音声合成の歌声を合わせる方法には難しさがありました。

そこで重要になったのが、歌声とピアノをどのように時間軸の上で管理するか、という問題です。

生演奏に音声合成の歌声を合わせる難しさ

Synthesizer Vで歌声を制作するときには、基本的に小節や拍を基準に音符を入力していきます。

例えば、4拍子の曲であれば、1小節の中に4つの拍があり、その位置を確認しながら歌声の音符を配置します。

ピアノも同じテンポで制作されていれば、楽譜を見ながら歌声を入力することができます。

ところが、生演奏を録音した音源では、必ずしもDAW上の小節線と実際の演奏が一致するとは限りません。

演奏の途中でわずかにテンポが変化すると、楽譜上では同じ拍にあるはずのピアノと歌声が、実際にはずれてしまうことがあります。

その状態で歌声を小節や拍に沿って入力しても、ピアノの演奏とはタイミングが合わない場合があります。

歌声を自然に合わせようとすると、発音を始める位置や音の長さを、ピアノの実際の演奏に合わせて調整しなければなりません。

場合によっては、フレーム単位で細かな位置を確認しながら、一音ずつ調整することになります。

短いフレーズであれば対応できても、それが一曲を通して続くとなると、かなりの作業量になります。

実際に、生演奏の自然なリズム感へ音声合成の歌声を合わせることは、思っていた以上に難しいと感じました。

生演奏に合わせてテンポマップを作るなど、別の方法もあります。ただ、そのためには演奏のタイミングを解析し、制作環境の時間軸を整える工程が必要になります。

二音一幕では、そうした作業を重ねるよりも、最初からピアノと歌声を同じ時間軸で組み立てる方法を選びました。

MIDIなら、小節と拍を共通の基準にできる

MIDIでピアノを制作する大きな利点は、小節や拍を基準に音符を管理できることです。

ピアノとSynthesizer Vの歌声を同じテンポ・拍子で制作すれば、両方の音符を共通の時間軸に配置できます。

例えば、楽譜の3小節目の2拍目から歌い始めるのであれば、Synthesizer Vでもその位置を基準に音符を入力できます。

ピアノの演奏も同じ小節・拍に沿って作られているため、最初から大まかなタイミングが揃った状態で制作を進められます。

もちろん、実際の歌唱では、音符の位置に対して発音が少し前後することもあります。

子音の発音や言葉のつながりによって、細かなタイミング調整が必要になることもあります。

ただ、最初から小節と拍の基準が揃っていれば、必要な部分の調整に集中できます。

一曲全体のタイミングを合わせ直すのではなく、気になるフレーズや音符だけを確認すればよいのです。

この違いは、歌声を一音ずつ作り込んでいく二音一幕にとって、とても大きなものです。

一度作った演奏を、そのまま残せる

MIDIには、もう一つ制作上の利点があります。

それは、一度決めた演奏を、そのままの状態で残せることです。

例えば、ある小節のピアノが思いどおりの演奏になったとします。

その後、別の小節を調整しても、完成した部分の演奏は変わりません。

一音だけ強すぎると感じた場合は、その音のVelocityを調整できます。

音の長さを確認したい場合も、対象の音符を選んで修正できます。

生演奏を録音する場合、演奏を録り直すと、前回とは少し異なる表情になることがあります。その違いを楽しめることも、生演奏の魅力です。

一方、MIDIでは、すでに整えた演奏を維持しながら、必要なところだけを修正できます。

また、歌声の調整を行っている間も、ピアノの演奏は同じ状態で再生されます。

歌声を変更したときに聴こえ方が変わったのであれば、まず歌声側の変更を確認できます。

比較する基準が変わらないため、細かな調整の結果も判断しやすくなります。

毎回同じ演奏を作るためではなく、同じ演奏を基準にして、少しずつ完成度を高めていけること。

これも、MIDIを使う理由の一つです。

MIDIでも、ピアノの表情は一音ずつ作っている

小節や拍を基準に制作すると聞くと、すべての音を同じ強さで並べた、機械的な演奏を想像するかもしれません。

しかし、二音一幕では、ピアノの強弱も一音ずつ調整しています。

その中心となるのが、MIDIのVelocityです。

Velocityは、音符ごとに設定できる数値で、ピアノ音源では主に打鍵の強さや音色の変化に関わります。

二音一幕では、楽譜に記されたp、mp、mf、fなどの強弱をMIDI上で表現するため、それぞれにVelocityの基準値を設けています。

例えば、同じ音符であっても、静かな部分と盛り上がる部分では、求められる響きが異なります。

また、右手の旋律を聴かせたい場面と、左手の伴奏を控えめにしたい場面でも、音量のバランスを考える必要があります。

そのため、基準値を設定した後も、実際の音を聴きながら必要な調整を行います。

ここで大切にしているのは、楽譜そのものを作り替えることではありません。

楽譜に書かれた音楽を、どのような強さや響きで聴かせるか。

その表現を、MIDIの数値を使って組み立てています。

一音ずつ入力する作業には時間がかかりますが、一音ずつ演奏の表情を確認できることも、この方法の特徴です。

なぜ既存のMIDIデータを使わず、自分で入力するのか

MIDIでピアノを制作するのであれば、すでに作られたMIDIデータを利用する方法もあります。

ただ、既存のMIDIデータには、利用条件が明確でないものもあります。

また、希望する楽曲のデータが見つかったとしても、ピアノ伴奏だけのデータとは限りません。

複数の楽器が含まれていたり、二音一幕で使用したい楽譜とは異なる構成になっていたりする場合もあります。

そこで二音一幕では、使用する楽譜を用意し、その楽譜をもとにピアノの音符を一音ずつMIDIへ入力しています。

楽譜についても、演奏動画への利用について案内されているものを選び、利用条件を確認したうえで制作しています。

楽曲そのものの著作権と、楽譜や既存MIDIデータの利用条件は、それぞれ別に考える必要があります。

そのため、使用する資料を把握しながら制作を進めることも大切にしています。

自分でMIDIを入力する方法は、決して短時間で終わるものではありません。

しかし、音符の配置や強弱を最初から確認できるため、その後の調整も自分たちの制作方法に合わせて進められます。

ピアノと歌声を、同じ時間軸の上で育てていく

二音一幕では、ピアノに「Acoustic Piano – Ballad」という音源を使用しています。

楽曲によって演奏の強弱や音作りは変わりますが、ピアノ音源は共通です。

同じ音源を使い、楽譜をもとに演奏を組み立て、その上にSynthesizer Vの歌声を重ねていきます。

歌声についても、音符を入力して終わりではありません。

言葉の発音、子音のタイミング、音のつながり、フレーズの終わり方など、必要に応じて細かな調整を行います。

ピアノも歌声も、一度に完成させるのではなく、実際の音を聴きながら少しずつ整えていきます。

このとき、両方を同じ小節・拍の基準で管理できることが、制作の進めやすさにつながっています。

ピアノの演奏を整えた後に歌声を調整することもできますし、歌声とのバランスを聴いてからピアノの強弱を見直すこともできます。

一音ずつ演奏を組み立てたピアノと、一音ずつ歌い方を整えた音声合成。

この二つを組み合わせる方法が、二音一幕の制作に合っていると感じています。

おわりに ― MIDIを選んだ理由

生演奏には、その瞬間にしか生まれない音楽の魅力があります。

演奏者の呼吸や自然なタイミングの変化が、一つの演奏として形になっていきます。

一方、二音一幕では、ピアノと音声合成の歌声を小節・拍という共通の基準で管理し、一音ずつ調整を重ねる方法を選びました。

MIDIで制作するからといって、作業が少なくなるわけではありません。

楽譜を見ながら音符を入力し、強弱を付け、歌声と合わせて聴き直す。完成までには、さまざまな工程があります。

それでも、演奏を同じ状態で残しながら、必要な部分を何度でも調整できることは、大きな利点です。

MIDIを選んだのは、演奏を機械的にするためではなく、歌声とピアノを同じ基準で丁寧に作り込むため。

二音一幕では、これからも一音ずつ演奏を組み立てながら、声とピアノで一つの物語を描いていきます。

声とピアノで、ひとつの物語を。

二音一幕

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