「ガーネット」を桜乃そらとピアノで。柔らかな歌声と、原曲の歌い回しをたどる一幕
奥華子さんの「ガーネット」を、桜乃そらさんとピアノによる弾き語りとして制作しました。
今回目指したのは、力強く前へ出る歌声ではなく、どこか優しく包み込むような大人の歌声です。
そのため、桜乃そらさんの声はSweetとSoftを中心に組み立てました。
一方で、声質を柔らかくするだけでは「ガーネット」らしい歌にはなりません。
原曲を聴いていくと、「という」「なった」といった、ごく普通の言葉の中にも、文字や楽譜だけでは表しきれない細かな歌い回しがあります。
今回は、そうした部分をSynthesizer Vの音素へ落とし込みながら、ピアノにも強弱を持たせ、声とピアノが一緒にひとつの流れを作るように仕上げました。
この記事では、「ガーネット」をどのように歌ってもらい、どのようにピアノと組み合わせたのか、実際の設定を交えながら振り返ります。
桜乃そらの歌声は、SweetとSoftを中心に
今回のボーカルスタイルは、次のように設定しています。
| ボーカルスタイル | 設定値 |
|---|---|
| Sweet | 40% |
| Soft | 55% |
| Adult | 30% |
| Pop | 0% |
| Pop_Gentle | 10% |
| Deep | 0% |
| Cool | 0% |
その他のパラメータは次の通りです。
| パラメータ | 設定値 |
|---|---|
| テンション | 0.000 |
| ブレス | +0.300 |
| ジェンダー | 0.000 |
| トーンシフト | 0 cents |
中心にしたのは、Sweet 40%とSoft 55%。
そこへAdultを30%加えています。
桜乃そらさんがもともと持っている大人の女性らしい声を残しながら、今回はその大人っぽさを強く押し出すのではなく、柔らかさを前に出しました。
Pop_Gentleは10%だけ加えています。
歌声の輪郭を強く作るというより、柔らかな声の中にわずかに明瞭さを残す程度です。
ブレスは+0.300。
息っぽさそのものを演出として聴かせるのではなく、SweetとSoftを中心にした声に、少し空気を含ませるような使い方になっています。
原曲の歌い回しを、音素の長さで作る
今回の歌唱では、音程だけでなく、音素の長さにもかなり手を入れています。
特に意識したのは、原曲を聴いたときに感じる「文字どおりではない発音」です。
歌詞として書かれている日本語を正確に入力するだけでは、原曲で聴こえていた歌い回しにならないことがあります。
そこで、発音そのものを大きく変えるのではなく、それぞれの音素が占める時間を調整することで近づけていきました。
「という」を「とゆう」に近づける
「好きという気持ちが」の「いう」は、そのまま歌わせると「い・う」という二つの母音が比較的はっきり現れます。
しかし原曲を聴いた印象では、「好きとゆう」のように、もっと滑らかにつながって聞こえます。
そこで「i」の音素を短くし、その中へ「u」が早めに割り込んでくるように調整しました。
「i」を完全になくしてしまうのではなく、ごく短く残しています。
そのため、言葉そのものを「ゆう」へ置き換えるのではなく、元の「いう」という発音を残したまま、聴感上は「ゆう」に近づきます。
文字として何を歌わせるかではなく、時間の中で母音をどう受け渡すかを調整した部分です。

「おう」は、二つの母音に分かれすぎないように
「だいじょうぶなように」には、「じょう」と「よう」という二つの「おう」系の発音があります。
Synthesizer V上では、
「じょう」なら j o u
「よう」なら y o u
という形で音素が並びます。
ここで「o」と「u」をそのまま長く取ると、「お・う」と母音が分かれて聞こえやすくなります。
実際の歌唱では、「おー」に近いひと続きの響きとして聞こえることも多いため、「o」を主体として長く取り、後ろの「u」を短くしました。
「u」を削除して「o」だけにしてしまう方法もあります。
ただ、二音一幕では、元の言葉が持っている音素を可能な範囲で残したいと考えています。
そのため今回は「u」を消すのではなく、存在をわずかに残しながら、自然に聞こえる長さを探しました。

今回は、小さい「っ」をかなり調整した
「ガーネット」の音素を見直していて、特に多かったのが小さい「っ」の調整でした。
確認してみると、
「なった」
「ずっと」
「めぐって」
「かわって」
「こわがって」
「おわってく」
「おもった」
「いって」
など、重複する言葉も含めて全14か所の促音を調整しています。
これだけ多いと、個別の修正というより、今回の歌唱全体に関わる調整のひとつだったと言えそうです。
楽譜どおりでは「っ」が長すぎることがある
分かりやすいのが「めぐってく」の部分です。
楽譜上では、小さい「っ」に8分音符分の長さが割り当てられています。
これをそのまま入力すると、「っ」の部分が長い無音区間になります。
Synthesizer Vの波形を見ても、調整前は「ぐ」と「て」の間に大きな空白ができていることが分かります。
もちろん、小さい「っ」には一瞬音をせき止める役割があります。
しかし、その時間が長すぎると「めぐって」という言葉の促音ではなく、歌そのものが途中で一度止まったように聞こえてしまいます。
そこで、「っ」という一瞬の詰まりは残しながら、無音になる時間だけを短くしました。


ここで面白いのは、楽譜どおりに入力することと、楽譜どおりに聞こえる歌を作ることは必ずしも同じではないという点です。
楽譜には8分音符として「っ」が存在していても、人間の歌手がその時間すべてを完全な無音として使っているとは限りません。
楽譜を入力したあと、実際の歌を耳で確認して、必要であれば音素側の時間を調整する。
今回の「っ」は、その分かりやすい例でした。
「なった」と「なーた」の間を探す
同じ促音でも、「好きになったとしても」の「なった」は、もう少し原曲のニュアンスを意識しています。
「っ」をしっかり取れば、
なっ・た
と、言葉の切れ目が明確になります。
反対に「っ」をなくしてしまえば、
なーた
に近づいていきます。
原曲を聴いたときに感じたのは、そのどちらでもない発音でした。
そこで「っ」を完全にはなくさず、かなり短くしています。
感覚的に表現するなら、「なった」と「なーた」の中間くらいです。
「なった」という日本語の形は残っている。
しかし「っ」で強く区切らず、「な」から「た」へ柔らかくつながっていく。
原曲の歌い回しへ近づけるために行った調整ですが、その柔らかなつながり方は、今回の桜乃そらさんの歌声にもよく馴染みました。

ピアノはBPM 74。強弱を段階ではなく流れとして作る
ピアノのテンポは74 BPMです。
Velocityの基準は次のようにしています。
| 強弱 | Velocity |
|---|---|
| p | 72 |
| mp | 80 |
| f・左手 | 84 |
| f・右手 | 88 |
最低音はG0まで使用しています。
fでは右手を88、左手を84とし、左右を同じ強さにはしていません。
低い音まで使う伴奏なので、左手まで同じように強くすると低域の存在感が大きくなりすぎます。
そこで左手を少し抑え、右手側に表情を持たせています。
mpからfへ、少しずつVelocityを上げる
今回あらためてデータを確認していて見つけたのが、mpからfへ向かう部分のVelocityです。
強弱記号が変わる場所で、
80 → 88
と突然切り替えているわけではありません。
その途中にある音を少しずつ強くし、Velocityがなだらかに上昇するようにしています。

これによって、ピアノが突然大きくなるのではなく、フレーズの進行と一緒に少しずつ熱を帯びていきます。
p、mp、fという数値は基準として存在します。
しかし実際の演奏では、その三つの値だけでピアノを塗り分けるのではなく、その間をどう移動するかも大切にしています。
声の音素で時間の流れを調整したのと同じように、ピアノでもVelocityの変化を時間の流れとして作っています。
EQは、声を大きくするのではなく居場所を作る
今回のピアノEQは次の設定です。
| EQ | 周波数 | Gain | Q |
|---|---|---|---|
| LC 12dB/Oct | 25Hz | – | – |
| LF Shelf 6dB | 120Hz | -1.5dB | – |
| LMF | 280Hz | -2.0dB | 1.2 |
| MF | 650Hz | +1.0dB | 1.0 |
| HMF | 3.2kHz | -1.5dB | 1.5 |
| HF Shelf 6dB | 8kHz | -1.0dB | – |
| HC 12dB/Oct | 16kHz | – | – |
低域の膨らみを少し抑え、高域も強く出しすぎないようにしています。
最低音はG0まで使っていますが、低音を消したいわけではありません。
25Hz以下をカットし、120Hzや280Hzを少し整理することで、低音そのものは残しながら、必要以上に膨らまないようにしています。
高域についても、ピアノを明るく鋭く前へ出すより、少し落ち着かせる方向です。
一方、桜乃そらさんのEQは次のようにしています。
| EQ | 周波数 | Gain | Q |
|---|---|---|---|
| LC 24dB/Oct | 85Hz | – | – |
| LF Peaking | 160Hz | -1.5dB | 1.4 |
| LMF | 280Hz | +1.0dB | 1.0 |
| MF | 1.2kHz | -1.0dB | 1.2 |
| HMF | 3.5kHz | +1.5dB | 1.2 |
| HF Shelf 6dB | 10kHz | +2.0dB | – |
| HC 12dB/Oct | 18kHz | – | – |
ここでピアノと声を比較すると、対照的な部分があります。
280Hzでは、
ピアノ:-2.0dB
声:+1.0dB
3kHz台では、
ピアノ:3.2kHzを-1.5dB
声:3.5kHzを+1.5dB
高域も、
ピアノ:8kHzから-1.0dB
声:10kHzから+2.0dB
と、それぞれ違う方向へ動かしています。
ボーカルを単純に大きくして聞き取りやすくするのではなく、ピアノ側で少し場所を空け、その中を歌声が通れるようにする考え方です。
ピアノを0dB、歌声を-4dBにした理由
初期フェーダーは、
ピアノ:0dB
桜乃そら:-4dB
です。
PANは、
ピアノ:L65 / R65
桜乃そら:C0
としています。
二音一幕では、ピアノを小さな伴奏として後ろへ置き、ボーカルだけを大きく前へ出すことを基本にはしていません。
ピアノ弾き語りとして、ピアノもしっかり聴こえる。
そのピアノに寄り添うように歌声が存在する。
今回も、その距離感を目指しました。
桜乃そらさんは比較的高い帯域まで声が通るため、フェーダーでは-4dBまで下げています。
ただし、単純に声を小さくしているだけではありません。
先ほどのEQでピアノと声の居場所を分けているため、音量ではピアノより控えめでも、歌声そのものは埋もれにくくなっています。
ピアノを左右へ広げ、歌声を中央に置いていることも、その分離を助けています。
リバーブは、ピアノに空間を作り、声は中央に残す
リバーブはRoomタイプを使用しています。
主な設定は次の通りです。
| 項目 | 設定値 |
|---|---|
| Pre | 15.0ms |
| Length | 1.10s |
| Mix | 1.00 |
| Type | Room |
| Size | 8.5m |
| Width | 1.4 |
| Height | 2.5 |
| Population | 0.3 |
| Reflexivity | 0.4 |
| Dampness | 55.0% |
| Dist | 0.35m |
| Asym. | +0.15 |
| Plane | 0.5 |
| HQ Mode | ON |
センド値は、
ピアノ:-15dB
桜乃そら:-19dB
です。
歌声よりもピアノを多くリバーブへ送っています。
左右へ広げたピアノに少し広めのRoomを与え、ピアノを中心に空間を作る。
その一方で、中央に置いたそらさんのリバーブは控えめにして、声の輪郭まで残響の中へ溶かしすぎないようにしました。
残響時間は1.10秒。
大きなホールのように長く響かせるのではなく、近さを残しながら周囲に柔らかな空間を作る程度にしています。
最終段でも、強弱を潰しすぎない
最終段のリミッターは次の設定です。
| 項目 | 設定値 |
|---|---|
| Gain | +5dB |
| Ceiling | -1dB |
| Threshold | -1dB |
| Mode | B |
| Attack | Normal |
| Release | 200ms |
音量を整えるためにリミッターを使用していますが、ピアノで作ったp・mp・fや、歌唱の強弱まで均一にしてしまわないことを重視しています。
完成音源をYoulean Loudness Meter 2 Proで測定した結果は次の通りでした。
| 測定項目 | 結果 |
|---|---|
| Integrated | -18.0 LUFS |
| Loudness Range | 5.4 LU |
| Dynamics(PSR) | 9.3 LU |
| Avg. Dynamics(PLR) | 14.3 LU |
| Momentary Max | -12.5 LUFS |
| Short-Term Max | -14.7 LUFS |
| True Peak Max | -3.6 dBTP |

Integratedは-18.0 LUFS。
True Peak Maxも-3.6dBTPで、上限まで音を詰めた仕上がりではありません。
測定グラフを見ても、曲全体が一定の音量へ張り付くのではなく、山と谷を繰り返しています。
先ほど紹介したVelocityのクレッシェンドを含め、ピアノと歌声で作った強弱を、完成音源にもある程度残した結果です。
楽譜を入力するだけでは、同じ歌にはならない
今回「ガーネット」の制作データをあらためて見返してみると、声とピアノで似たことをしていました。
歌声では、
「という」のiを短くする。
「おう」のuを短くする。
小さい「っ」の時間を短くする。
ピアノでは、
p、mp、fという基準を作りながら、その間のVelocityを少しずつ変化させる。
どちらも、楽譜や歌詞に書かれた情報をそのまま入力して終わりにはしていません。
原曲を聴き、実際に出てきた音を聴きながら、
「ここはもう少し短い」
「ここは少しずつ強くなる」
「この母音は、もう少し早く次へ渡る」
といった、譜面だけでは表しきれない時間の変化を加えています。
特に今回、14か所も調整していた小さい「っ」は、その象徴的な部分でした。
8分音符だから、その時間をすべて無音にする。
それでは楽譜上は正しくても、耳で聴いた歌としては不自然になることがあります。
楽譜を読み、原曲を聴き、実際に歌わせ、最後は耳で判断する。
その繰り返しによって、今回の桜乃そらさんによる「ガーネット」が形になりました。
柔らかく歌うそらさんと、強弱を持って寄り添うピアノ。
その二つが同じ時間の中で少しずつ動くことで、この曲の一幕を作っています。
声とピアノで、ひとつの物語を。
二音一幕
🎼 使用楽譜
電子楽譜カノン
「ガーネット」楽譜ページ